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「そう。君はその時、血で結ばれた関係が強いと言ったんだよ。僕も同意見だ。運命の番だとか、どんな燃え上がるような恋愛でも、所詮は他人だ。血のつながりに勝るものは無いよ」
私は閉口した。その話は覚えている。でもその時、私が意識したのは、母親との関係だった。決してマノメとの関係を指したものでは無い。私は外に目を向けた。雨でガラスが曇ってきて、庭園の薔薇がぼやけていた。
「僕は、初めて君に会った時に、これこそ運命だと思ったんだ」
「たまたまだ」
「そうたまたま、違う産道から出てきてしまっただけでね。僕は君を己の半身だと思っているんだ」
「馬鹿々々しい」
「だから僕は、自分の半身を失いたくない。君が兵士として戦争に行くことが耐えられないんだ」
「そうだな。お前の家が出資してる会社が製造するナパーム弾が、私の頭上に振ってくんだよ。狂ってるよな。でも私は行かなきゃいけない。この国のベータ種は、男女区別なく出兵する」
私はそこでやっとコーヒーを飲もうと思った。こんなお高いレストランのコーヒーだ。もうこの先飲むことなんてないだろう。
やっぱり、何か頼んでおけば良かったなと、軽く後悔した。うちの国のレーションは他国に比べてマシだとか言われているが、それでもきつい。
カップに口を付けると、既にコーヒーは冷めていた。馬鹿舌だから、よく飲んでいたインスタントとの違いが分からない。それでもありがたく飲んだ。
「君はベータ種である前に、マノメ家の人間なんだ」
「今は家柄は重要じゃない。アルファか、ベータか、オメガか。ベータは兵士に、オメガは産む機械に、そしてアルファは――お前らアルファは?優秀なアルファを増やすためって、オメガと子作りに励むのか?なぁ、監視カメラがある部屋でセックスするってマジ?」
離れた場所にいるウェイターを含め三人しかいない、白を基調としたレストランで、私はあからさまな単語を出した。
「重要な任務だってな。アルファとオメガの性行為は神聖なもの。アルファとオメガ以外の性交渉は厳罰。何回やって、何回出したか、監視員が記録取るんだろ?アルファを五人以上産んだオメガは表彰されるって?これが現代のノブレス・オブリージュってか?」
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