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それは十月の第二水曜日だった。美術室でミニチュアのヴィーナス像を鑑賞しすぎて遅くなり、送るよ、大学の美術教授の親切な申し出を断り急ぎ退出したせいか、駅へつく前に尿意を催してしまった 「トイレトイレ」 いつもだったら利用しない公園のトイレ。暗いし、静かだし、何か出そうなここを利用するのはスッゴい嫌だけど、もう膀胱が限界、行くしかない 「うおっ」 ビビったー 先客がいましたよ 僕の手の平はあろうかという、蛾。デカいからビビったというより僕は、昆虫全般好きではない。昆虫というのは生命をなくしたらカラカラに乾く。忘れもしない、それを最初に僕に知らしめたのは十二才まで隣の家に住んでいた悪ガキ、エイちゃんだ 『ヨシトー。見て見て』 女の子みたいに可愛いエイちゃんがにこっ、笑うと胸がドキドキしていた。小さな顔を包む髪はふわふわで、抜けた歯まで可愛い。あの顔で愛子先生やクラスメート(男女問わず)を誑かすエイちゃんは腕力もあるし、足も速いし、声だって僕よりデカい。なのに、一緒にイタズラをしても怒られるのはいつも僕だけだった エイちゃんなんか嫌いだ。でも、笑顔の可愛さについふらふらと、虫かごの中にいるカブトムシのツノを持つエイちゃんに近づいた
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