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1.怪盗アンジップから予告状が届きました
疲れた体を引きずるようにして、自宅前までたどり着いた。
窓から漏れる光は無い。
当然だろう。もう深夜三時だ。こんな時間ともなれば、今年八歳になる息子はもちろんのこと、妻もとっくに床についているに決まっている。
そしてその方が、気が楽だった。
いや、気が楽というほどでもないか。
今日、妻子と顔を合わさずに済んだところで、どのみち今週中にはあのことを話さなくてはならないのだ。その時のことを想像するだけで胃が痛くなりそうだ。
まったく、なぜ私がこんな思いをしなくてはならないのだ。
私は何も悪くない。悪いのは全て、あの怪盗アンジップだというのに。
二人を起こしてはいけないので、音をたてないよう気をつけながら鍵を回し、ドアを開けて身を滑り込ませる。そして開けたドアを静かに閉じ、鍵をかける。
「ふう」
一息つき、額の汗を拭ったその時――!
眩い光に全身が包まれた。闇に馴れた目にその刺激は強すぎ、咄嗟に目を瞑る。
「おかえりなさい、あなた。遅かったわね?」
恐る恐る振り返りながら目を開けると、そこには妻が仁王立ちしていた。
蛍光灯の光を背後から浴び、影となったその姿には、仁王というよりは魔王のような風格がある。
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