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そして、つい先日。
眼球から、私の体内に潜り込み、未だに出てこない青色があった。
それは、決して、神秘的なものでも、魅力的なものでもなかった。どちらかと言えば、平凡で、退屈で、ありふれた青色だった。
それは、私の、そして、私の思い人の、傘の青。
ぬるい灰色の午後に、唐突に降りだした雨の中。慌てて骨組みを正して掲げた折り畳み傘。隣を見ると、空に大きな傘を突き立てる思い人。
その、お互いの頭上を覆うそれが、偶然にも全く同じ、晴天のような青色だった。
お揃いだ、と二人で言い合い、空を見上げる。視界には、無彩色の空と、鮮やかな二つの同じ青。
偶然生み出されたその光景を、私はしばらく眺めていた。
量産された、雨具の青色。偶然、色が被ってしまうほどに、無個性で、雑多な青色。
しかし、その青色が、そのつまらない青色が、私は、恋しくて堪らない。
他者にとって、無価値でいい。下らなくていい。
私の中に留まる青色が、私の今日の心を、その強烈な彩度で覆ってくれれば。
私の中に留まる青色が、私の過去の記憶を、その美しい彩度で飾ってくれれば。
私には、それでいい。それだけで、構わない。
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