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1.
今日の夜道は、いつもと違う気がする。
石橋七海は通勤用のカバンを抱きしめるようにしながら、最寄りのバス停への道を急いでいた。
普段使っている通勤路なのに、今日は何だか怖いような気がする。
怖い理由は、多分、昨日読んだ本のせいだ。
昨日、七海は寝る前に、買ったばかりのファンタジー小説を読んだ。青年の魔法使いが活躍する、七海がお気に入りのシリーズの最新刊だった。
主人公の魔法使いが愛用のマントを羽織りながら夜道を歩いていると、後ろから巨大な悪魔がやってきて……。
七海は残念ながらそこの場面で寝落ちをしてしまい、その後、魔法使いがどうなったかというところまで読むことが出来なかった。
七海は早く家に帰って本の続きを読みたかった。でも、夜遅くまで読書していたせいなのか寝坊してしまい、慌てて支度をしていたら、本を持ってくるのを忘れてしまったのだ。
そして、早く帰りたい日に限って仕事が長引いてしまい、帰りが遅くなってしまった。
まあ、明日は土曜日で仕事も休みだから、ゆっくりと本の続きが読めるけど、何でこんな日に限って残業になってしまうんだろう、と七海はカバンを抱きしめながら思った。
(でも、最近、おかしいな……)
七海は心の中で呟いた。
自分が専門学校を卒業して今の会社に入ったばかりの頃は、こんなに遅くまで残業することなんてなかったのに。
今、ちょうど入社して一年くらい経ったが、ここ1・2ヶ月の間に急に仕事が忙しくなってきた。何人か同僚が辞めてしまい、よくわからない仕事が大量に回ってくるようになったのだ。
しかも、先月は残業代が支払われなかったし……。
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