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「そうですよ。そして、何よりも晶が……。晶が七海さんのことを気に入ってくれて、本当に嬉しいです。晶が今までバイトの子をこんなに気に入ることはなかったんですよ……」
信彦は瞳を少しウルウルとさせ、言葉を詰まらせた。
「あっ、いえ……。それは、きっと私のホットケーキが気に入っているだけなんだと思いますけど」
七海は信彦のウルウルとした瞳を見て、やっぱり信彦も多少は晶に手を焼いているのだろうな、と思った。
それにしても、あの人……、と七海は思った。
この「Tanaka Books」で働いて1ヶ月経つが、未だに晶がどういう人間なのかよくわからない。
晶のことでわかっているのは、魔法使いだと言うこと、何故かこのビルの中でしか魔法が使えないこと、ホットケーキとブランデーケーキが好きなこと、それくらいだろうか。
普段、何をやっているかもまったくナゾだ。
多分、あの三階の自分の部屋で魔法使いの仕事はやっているのだろう。でも、魔法使いの仕事をやっている時以外は何をしているのかはわからないし、魔法使いの仕事自体、どんなことをやっているのかナゾだ。
時々、「ガツガツ」と足音を立てながら店にやってきて、「ホットケーキ作って」と言ったり、「これ買って来い」とか言ってクシャクシャのメモ紙を渡したりするが、それ以外、普段どういう行動をしているのかはわからない。
まあ、魔法が使えなくなるから、ビルの外には一切出てはいないことぐらいはわかるけど……。
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