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 七海は小説のそのシーンを読むと、思わず本を閉じた。  土曜日も思ったが、この「王女様がケガをしたジョニーを抱きかかえながら城に連れていく」という部分、どこかで見たことがあるような気がする。  そう、まるで金曜日の夜にバンのバックドアから転がり落ちてきた男に「そこのビルまで運んでってよ」と言われて、男を抱きかかえてビルまで運んでやった自分のようではないか。  これはただの偶然なのだろうか……。  七海がアレコレと想いを巡らせていると、何やら遠くの方から「ガツガツ」と大きく響く足音が聞こえてきた。  足音が停まったかと思うと、さっき信彦が入って行った店の奥のドアが開いて、男が一人入ってきた。  七海は入ってきた男を見て「あっ!」と小さく声を上げると、思わずイスから立ち上がった。  店の奥のドアから入ってきたのは、金曜日に七海が抱きかかえてビルまで運んでやった、あのふてぶてしい男だった。  明るい店内の中で見ると、男のキレイな顔立ちがよりハッキリと手に取るようにわかる。  あのビー玉のような瞳も、店の窓から差し込む太陽の光に反射して、キラキラと輝いていた。 「――あの時の」  七海が小声で言うと、男は「はあ?」と言うような表情をした。 「お前、あの時の……」  七海が戸惑っていると、さっき男が入ってきた店の奥のドアから、今度は信彦が入ってきた。 「――何だ、(しょう)、このお嬢さんと知り合いだったのか?」 「そんなんじゃねーよ。ほら、金曜日に俺が……」 「ああ、お前がビルの外に出た日だな。――もしかして、このお嬢さんが助けてくれたのか?」 「――」  晶と呼ばれた男は、ムスッとした表情で小さく頷いた。  信彦は七海に近付くと、「あの時、晶を助けてくれてありがとうございました」と笑顔で言った。
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