31人が本棚に入れています
本棚に追加
七海は小説のそのシーンを読むと、思わず本を閉じた。
土曜日も思ったが、この「王女様がケガをしたジョニーを抱きかかえながら城に連れていく」という部分、どこかで見たことがあるような気がする。
そう、まるで金曜日の夜にバンのバックドアから転がり落ちてきた男に「そこのビルまで運んでってよ」と言われて、男を抱きかかえてビルまで運んでやった自分のようではないか。
これはただの偶然なのだろうか……。
七海がアレコレと想いを巡らせていると、何やら遠くの方から「ガツガツ」と大きく響く足音が聞こえてきた。
足音が停まったかと思うと、さっき信彦が入って行った店の奥のドアが開いて、男が一人入ってきた。
七海は入ってきた男を見て「あっ!」と小さく声を上げると、思わずイスから立ち上がった。
店の奥のドアから入ってきたのは、金曜日に七海が抱きかかえてビルまで運んでやった、あのふてぶてしい男だった。
明るい店内の中で見ると、男のキレイな顔立ちがよりハッキリと手に取るようにわかる。
あのビー玉のような瞳も、店の窓から差し込む太陽の光に反射して、キラキラと輝いていた。
「――あの時の」
七海が小声で言うと、男は「はあ?」と言うような表情をした。
「お前、あの時の……」
七海が戸惑っていると、さっき男が入ってきた店の奥のドアから、今度は信彦が入ってきた。
「――何だ、晶、このお嬢さんと知り合いだったのか?」
「そんなんじゃねーよ。ほら、金曜日に俺が……」
「ああ、お前がビルの外に出た日だな。――もしかして、このお嬢さんが助けてくれたのか?」
「――」
晶と呼ばれた男は、ムスッとした表情で小さく頷いた。
信彦は七海に近付くと、「あの時、晶を助けてくれてありがとうございました」と笑顔で言った。
最初のコメントを投稿しよう!