3.

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 あの女性、多分自分と同い年くらいだろう。  七海は毎朝見る鏡の中の自分の姿と、あの女性の姿を比べてみた。  まあ、その人その人の「個性」みたいなものは大事なのだろうけど、どうして自分はあの女性のように「大人な女性」みたいな見た目ではないのだろうか……、と七海はまたため息を吐いた。  初めて会った時に晶に「だって、お前、まさかの未成年じゃないのか?」と言われたことでもわかる通り、七海は童顔で子供っぽく見えてしまうことが悩みだった。  なるべく服装も「大人っぽい」ものを選んでいるし、外出する時はメイクも欠かさない。  だと言うのに、23歳になった今でも「学生さんですか?」とか、下手すると「高校生ですか?」と訊かれるのだ。  友達と居酒屋などのアルコールを出す店に行く時は、年齢を証明する免許証は欠かせない。  もっとメイクを濃くすれば良いのだろうかとも思うが、七海はメイクを濃くすると、すごく「厚化粧」に見えてしまうたちなのだ。  自分はこんなに悩んでいるのに、あの女性は「ジーンズ」や「ボーダーのシャツ」という子供っぽく見えてしまいそうな服装を、あんなにサラリと「大人な女性」の雰囲気を醸し出しながらまとっている。  そう言えば、晶もリーバイスのジーンズとかフレッドペリーのジャージとか、子どもっぽい服装をしているけど、子どもっぽくは見えない。  と、言うことは、これは童顔とかそういう問題ではなく、顔の造形の美しさの問題なのだろうか……。 (――羨ましいな)  七海がそのキレイな女性を目で追いかけていると、女性は店の前を横切って、店の入っているビルの入り口を開けて、ビルの中へとスッと入って行った。  七海は「あれっ?」と思った。  普通にビルの中に入って行ったけど、あの女性を見るのは初めてだ。新しくこのビルの住人にでもなった人なのだろうか。  七海はしばらくあのキレイな女性のことを考えていたが、またため息を吐くと、店の閉店の準備を始めた。
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