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「――すっ、すみませんでした」
七海は下を向いたまま小声で言った。「あの、彼女と一緒にいるところを盗み見するつもりなんてなかったんですけど……」
「えっ? 何だって?」
晶の容姿と同じキレイな声がビルの廊下に響き渡る。七海は晶の声に思わず顔を上げた。
晶のビー玉のような瞳とまた目が合う。
七海は晶のいつも通りのふてぶてしい表情に、何だか「ムッ」とした気持ちになった。
さっき一緒にいたキレイな女性と話していた時は笑顔だったのに、どうして晶は自分と接している時は、こうもふてぶてしい表情をするんだろうか。
自分があの女性に比べて童顔で子供っぽいからなのだろうか。
それとも、あの女性に比べてキレイじゃないからなのだろうか。
それとも、あの女性が晶の彼女だから……?
「すみませんでした!」
七海は今度はさっきの晶の声に負けないくらい、大きな声で言った。「だから、彼女と一緒にいるところを盗み見するつもりなんてなかったって言ったんです!」
「えっ? お前、何怒ってんの?」
晶が「はあ? どうしたんだ?」という表情をしたので、七海はますます「ムッ」とした気持ちになった。
「もう、いいです。失礼しました!」
七海は晶から顔を逸らすと、カバンから取り出したカギで、店の裏口のドアを「ガチャガチャ」と大げさに開け始めた。
何だか惨めな気持ちだな、と七海は思った。
別に晶のために自分の服の中でも一番「大人っぽい」と思われる服装をしたり、一番「大人っぽい」メイクをしてきたわけではない。
でも、自分なりに頑張っているのに、こうもあのキレイな女性と自分とで態度の「差」があると、何とも言えない惨めな気持ちになってしまう。
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