3.

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「そう、だったんですね……」 「だから、七海さんが心配しているようなことは何もないんです。全然心配しなくても良いんですよ」  信彦がニコニコと笑顔を見せながら言うのを見て、七海は慌てて首を振った。 「いえ! 全然、大丈夫です。全然、何も心配してないです!」  信彦は七海が慌てている様子をニコニコと見ていたが、ふと真顔になった。 「晶、魔力が弱まると、よくあの二人に会うんですよ」 「あの二人と言うと、このビルに住んでいる行政書士の事務所の人と、さっきの女性のことですか?」 「はい。あの二人、とても仲の良いカップルで、その内、結婚するんじゃないんでしょうか? あの二人に会うと晶の魔力が回復するので、多分、あの二人から不足した『愛』を補っているのかもしれませんね」 「そう、なんですか……」  七海は信彦が「晶の父親が『魔力は愛だ』」と言っていたことを思い出した。  なるほど、そうやって魔力の元である「愛」を補っていたのか……。  魔法使いもいろいろと複雑な事情を持っているんだな、と七海は思った。 「晶も自分で『愛』を補えるようになれば良いのかもしれませんが、あの子はまだまだみたいですね。――さて、仕事にしましょうか」 「はい」  七海は店に入って行く信彦の後ろ姿を見ながら、さっき信彦が言った言葉を思い出した。 (――晶も自分で「愛」を補えるようになれば)  確かに、あの人、まったくの子供だし、自分で「愛」を補えるようになるにはまだまだ難しいだろうな、と七海は信彦の言葉に頷いた。  やっぱり、自分の思った通りだ。あの人は、まだ子供だ。  まあ、女の子の友達はいたけど、「彼女」と呼べるような人はいなかったんだ……。
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