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七海はそこまで考えて「ハッ」とした。
これでは、まるで、晶に彼女がいなかったことに自分が「ホッ」としているようではないか。
(――それにしても)
七海は「はぁ……」とため息を吐いた。(次に堀之内さんに会う時、どんな表情で会えばいいんだろう?)
その日の閉店後、晶は相変わらず「ガツガツ」と大きな足音を立てながら「Tanaka Books」にやって来た。
「――お腹空いた! お前、ホットケーキ作れよ」
閉店の作業をしていた七海は、思わず晶の顔をまじまじと見つめた。
七海は今日一日ずっと「次に堀之内さんに会う時、どんな表情で会えばいいんだろう?」と考えながら過ごしていた。
なのに、実際にやってきた晶はいつもとまったく同じ「晶」だ。
七海は何となく拍子抜けしたような気持ちになったが、同時に「助かった」という気持ちにもなった。
(――この人は今朝のこと、気にも止めていないんだな)
少し淋しいような気もするが、まあ、これで良いのだろう……。
「わかりました。今、焼いて来るんで、待っててください」
七海もいつもと変わらない表情で、ホットケーキを焼くために給湯室へと向かった。
(――ホットケーキにまたアイス乗せようかな? まだ、アイス残っていたっけ?)
給湯室に向いながら、七海はぼんやりと考えた。
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