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七海は信彦の車の助手席に乗りながら、窓の外を見た。
一週間前に自分の車で通ったのと同じ道路だ。日本海は相変わらずどんよりとしたグレイに煙っていて、空もどんよりと曇っている。
雨が降っていないだけ、マシな天候だった。
「ノブさんは、あのワイナリーに行ったことがないんですよね?」
七海が運転している信彦に訊くと、信彦は頷いた。
「はい。でも、実は2回くらい行こうとしたことがあったんですが、一回目は一緒に行く予定だった人が急に仕事になってしまって、二回目は強風でワイナリーまでの送迎バスが中止になってしまっていけなかったんです。僕はワインが結構好きなので、一回くらいは行きたいとは思っていたんですけどね」
「そうなんですね」
2回行こうとして2回とも行けなかったなんて、何だかずいぶん運のない話だな、と七海は思った。
七海と信彦の乗った車は、真っすぐに目的のワイナリーまでの道を走った。
「それにしても、最近、不思議なことが多いですね」
運転している信彦がふと言った。
「不思議なこと、ですか?」
「はい。ビルの中でした魔法が使えないはずの晶が、少しですがビルの外で魔法が使えたり、愛美さんにそっくりの女性が現れたり……」
七海は晶と信彦に自分の姉の六華の話をした日、晶がビルの外なのに魔法を使って自分を助けたりしてくれたことを思い出した。
自分の姉のことばかり考えていたが、ビルの中でした魔法が使えない晶が、ビルの外で魔法が使えた……というのは、確かに重大事件だ。
「でも、あの時、どうしてビルの外でも魔法が使えたんでしょうか? 堀之内さんも、理由はわからないようでしたけど」
「何かしらの理由はあるはずですよ。その理由がわかれば、晶も親戚の魔法使いを気にせずに外に出られるんですが……。晶はビルの外に出られないことを『好きな時にビールを買いにいけないのが面倒だ』くらいにしか言わないんですけど、あの年代の男性がビルの外から一歩も出られないのは、やっぱりものすごく窮屈だなとは思うんです」
「そうですよね」
七海は信彦の言った言葉に大きく頷いた。
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