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七海がいろいろと考えながら夜道を急いでいると、後ろから車がやってきたらしく、ライトの灯りで急に周りが明るくなった。
七海は思わずビクッとして、後ろを振り返った。
バン? という車種の車だろうか、大きくて黒い車が七海の横を通り過ぎて行く。
何だかフラフラして走っているな、と七海が思ったその時、バンのバックドアが少し開いて、中から何かが転がり落ちてきた。
――人だ。
バックドアから落ちてきたのは男だった。
バンは男が落ちたのに気付いていないのか、そのままフラフラと走って行ってしまった。
七海は思わずバックドアから落ちてきた男の元に駆け寄った。
駆け寄って、アスファルトに倒れている男を上から見下ろした。
自分より少し年上くらいだろうか。
背が高めでスラッとしていて、アディダスのスニーカーにリーバイスのジーンズを履き、カーキ色の薄手のモッズコートを羽織っていた。
街灯の心もとない薄明りの中でもハッキリとわかるほど、キレイな顔立ちをしている。
俗に言う「美青年」という言葉がピッタリ来るような容姿だった。
男は目をつぶったまま、動かない。
「――あの、大丈夫、ですか?」
七海は恐る恐る倒れている男の肩に軽く触れながら言った。
肩に触れるために身を屈めると、何だかアルコールのにおいがする。
(――もしかして、この人、泥酔してるとか?)
七海が思った時、男が少し太めの整った眉を動かすと、ゆっくりと瞼を開いた。
瞳を開いた男と目が合った七海は、思わず胸をドキッとさせた。
瞳を開いた男は、瞼を閉じている時よりも何倍もキレイに見えた。
開いた瞼の中の瞳が、薄明りの街灯の光に反射して、静かに輝いている。
この瞳、まるでビー玉みたいだ、と七海は思った。
男は顔を歪ませながら身体を起こそうとしたが、上手く起き上がれない。
やっぱりこの人、泥酔してるんだな、と七海は思った。
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