6. Stand by Me(スタンド・バイ・ミー)

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「七海ちゃん、あのね」  あかねは七海の方をジッと見たまま、口を開いた。「ほとんどの人に話したことがなかったんだけど、私、6年前くらいに事故に遭って、その前の記憶がないの」 「えっ?!」 「6年前、病院のベッドで目が覚めたんだけど、その前の記憶がないの。お医者さんは『旦那さんと車に乗っていて事故に遭って、旦那さんは亡くなったけどあなたは生き残った』と言っていたわ。  で、病院を退院して自分の家らしい場所に戻ったら、確かにそこには自分が住んでいたらしい家があったし、私の旦那さんだという人の写真とかもあったの。子どもはいなくて、ずっと『旦那さん』と二人で暮らしていたみたい。でも、私、どうしても実感がわかなくて……。記憶だって、お医者さんは『直に取り戻しますよ』って言ってくれたけど、全然戻らないの。  この左手のやけどの痕だって、いつやけどした時の痕なのかもわからないのよ。でも私、結構おっちょこちょいだから、そのせいでやけどしたんだろうなって思っているんだけど、でも、やっぱりいつのやけどなのかはわからないのよね」  あかねは一気に言い終わると、戸惑いの表情を見せている七海に気付いたのか「ニコリ」と笑みを見せた。 「そう、だったんですね……」  七海は驚きのあまり、少し経ってからやっと言葉を発した。「すみません、言いにくいこと話させてしまって……」 「いいのよ。私もその堀之内さんのお母さんがとても気になるわ。堀之内さんのお母さんは亡くなったって言ったけど、その堀之内さんはお元気なのかしら? 一回会って、詳しくお話を聞いてみたいわ」  あかねの記憶がないということは、やはりあかねは晶の本当の母親なのだろうか。  そっくりな顔に同じ場所にあるやけどの痕、偶然しては上手く出来過ぎているとは思ったが、偶然ではなかったというのだろうか。  晶の母親が死んだのはウソで、何らかの事情で晶の母親は記憶を無くして、今ここにいる「片桐あかね」として生きているというのだろうか。
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