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でも、何のために? と七海は思った。
信彦は晶の母親は数年前の地震で階段から落ちて頭を打って亡くなったと言っていた。
その時に亡くなっていなかったのであれば、晶も正直に信彦に言えばいいはずなのに、どうして言わなかったのだろうか。
(――もしかすると、あかねさんの記憶がないのも、階段から落ちて頭を打ってしまったから、ということなのかな?)
ただ、こればかりはいくら考えて憶測しか出て来ない。
信彦も事情は知らないし、唯一知っていそうなのは晶だけだ。
あかねの言う通り、晶に詳しく話を聞いてみないことには何も始まらない。
「そう、ですよね……」
あかねに「一回会って、詳しくお話を聞いてみたいわ」と言われた七海は戸惑った。
自分も晶にこれはどういう事情なのか訊いてみたい。
でも、晶はビルの中から出ることが出来ないし、第一、自分の母親が生きていることを恩人のような信彦にも言わないのだから、よっぽど「言えない」事情があるのかもしれない。
「私も、記憶がない時の自分がどういう人間だったのか、ちょっと気になるのよね……」
あかねの言葉に七海は思わずハッとした。
あかねは「ちょっと気になる」なんて言っているが、本当は「ものすごく気になる」のではないのだろうか。
「その堀之内さんは元気です。お母さんの息子さんなんですが、ただ、事情があってここには来ることができなくて……」
「そうなの? じゃあ、もしなら私が会いに行ってもいいかしら?」
「はい、私、堀之内さんに言ってみますね。堀之内さん、B橋の近くの一階が本屋のビルに住んでいるので、そこに来てくれれば大丈夫です」
「ありがとう」
あかねはまた「ニコリ」と笑顔を見せた。
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