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バイトも一週間過ぎて、七海はすっかり信彦と打ち解けていた。
元々、七海は信彦のことを「良い人そう」と思っていたが、一緒に働き始めても「良い人そう」という印象は変わらない。
信彦は七海に仕事の内容など丁寧にわかりやすく教えてくれるし、面白そうな本もいろいろと紹介してくれる。
会社が倒産した成り行きでこの本屋の求人に飛びついたようなものだが、良いところでバイト出来たな、と七海は思っていた。
「――ところで七海さん、前の会社からは連絡は来ましたか?」
「一応、連絡は来たんですが、社長が行方不明になってしまったらしくて……」
七海はため息を吐いた。
一応この間まで働いた給与は何とかと言う制度で支払われることは支払われるらしいが、もう、倒産した会社が再起不能なのは決定的だった。
倒産してしまった会社への未練はもうなくなったが、それでもショックなことはショックだ。
会社が倒産してしまった後、七海はネットなどで「もうすぐ倒産しそうな会社の特徴」というのを調べてみたが、びっくりするくらい自分の勤めていた会社と特徴が一致していた。
だから、あんなに人が辞めたりしてたんだな、と七海は悟った。
「でも、七海さんもすぐに働いたりして良かったんですか? 確か、会社が倒産したら失業保険とかすぐに出るんですよね? もちろん、僕としては七海さんがここでバイトしてくれるのは非常にありがたいんですが、良かったのかなと思って」
「いいんです。――その、働いている方が好きなんです。家でボーッとしているのも性に合いませんし」
「そうなんですね、仕事熱心で素晴らしい」
信彦はそう言ってニコニコとした。
七海も信彦に笑顔を返した。
七海は信彦に笑顔を見せながら「申し訳ないな」と思っていた。
信彦に自分の考えはきっとわからないだろう。
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