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(――おっ、重い……)
七海の身体に男の重さがズッシリとのしかかってくる。重さだけでなく、アルコールのにおいも相当だ。
七海は男を抱きかかえてフラフラになりながら、一歩ずつゆっくりとビルへと歩いて行った。
今いるところからビルの入り口までは、10メートルくらいなのかもしれない。一人であれば、それこそ5秒もかからず行けるはずなのに……。
(――どうして、私がこんなことしなくちゃいけないの?)
七海は心の中で男に文句を言いながら、さっきチラッとでも男のことを「キレイ」とか「美青年」と思った自分のことを責めた。
七海はもう男のことをアスファルトの上に置き去りにして、このまま家路に急ごうとまで考えた。
「おい! 早くしないと、あの車に追いつかれるんだよ!」
その時、男が焦ったような口調で七海を急かした。
どうも、男はあのバンから逃れようとしているようだ。
またのふてぶてしい態度に、七海は思わず男を見上げた
男のあのビー玉のような瞳と目が合う。
目が合った七海は、思わず「はっ、はい!」と返事をし、男を抱きかかえたままフラフラとビルの方へと歩き始めた。
あのビー玉のような瞳。
あまりにも純粋でキレイに輝いていて、何だか逆らえないような気持ちになってしまう。
七海は何とか男を抱きかかえたまま、ビルまで歩いた。
そして、バンが二人の真後ろで「キィーッ」というブレーキ音と共に停まった瞬間、七海と男はビルの入り口に倒れ込むように入った。
(――はあ、重たかった)
ビルの中に入った七海は身体を起こすと、大きくため息を吐いた。
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