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月曜日。
七海は「やっぱり腑に落ちない」というような表情で会社への道のりを歩いていた。
金曜日の夜、自分は確かに男とビルの中にいたはずなのに……。
どうして気が付いた瞬間、朝の4時で自分の部屋のベッドの上で寝ていたのだろうか。
七海は朝の4時に目を覚まし、その後、眠気に襲われて再び眠った。次に起きると、太陽がすっかり登り切っている時間になってしまっていた。
ベッドから身体を起こし、それから今の今までずっと考えているが、やっぱり自分は確かにあの男とビルの中にいたとしか思えない。
男の「美青年」という言葉がピッタリ来るような容姿も、
男が瞼を開いた時に見えたビー玉のような瞳も、
男の「そこのビルまで運んでってよ」と言った時のふてぶてしい口調も、
男を抱きかかえた時に感じた身体の重みも、
全部、覚えている。
七海はあの男といたビルの前を通りかかると、思わず歩みを止めた。
見上げてみても、やっぱりどこにでもある普通の雑居ビルだ。
一階は小さな本屋で「Tanaka Books(田中書店)」という洒落た看板が立っている。
店のドアには「短期スタッフ募集中」という小さなポスターが貼ってあった。
本屋のドアの横にある、ビルの入り口の扉。
確かに自分は男を抱きかかえながら、あのビルの入り口の扉に入ったはずなのに……。
七海は首を傾げながら、再び会社への道のりを歩き始めた。
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