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葉月が出て行った後に、七海がふと周りを見渡すと、部屋の中には自分しかいなかった。
晶の姿がどこにもない。
元々晶はこの部屋にいなかったのではないかという錯覚さえ起こしてしまうほど忽然と姿を消している。
七海は「元々晶はいなかったのか?」と勘違いしそうになったが、テーブルの上に置いてあるホットケーキが乗っていた皿とフォークを見て、やっぱり晶はここにいたんだ、と思った。
「――ただいま」
信彦がいつもの笑顔を見せながら、帰って来た。
七海は慌てて店の方へ行くと、信彦に「お帰りなさい」と言った。
「ああ、七海さん、葉月さん来たでしょう? 店にパソコン忘れたみたいで」
「はい、来ました」
七海は信彦のいつもと変わらない笑顔を見ながら、葉月はさっきの盗作の話を信彦にはしていないんだろうな、と思った。
「あれ? 晶は? もう、部屋に戻ったんですか?」
「はい。――あの、私、片づけの続きしますね」
七海は言うと、店の奥の本が自由に読めるスペースへ行って、晶が食べたホットケーキの皿を片づけ始めた。
信彦とまともに顔を合わせられないような気持ちだった。
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