2. Songbird(ソングバード)

60/68
前へ
/298ページ
次へ
 七海は予想していたが、翌日、葉月は「Tanaka Books」に顔を見せなかった。  一日くらい来ないことはさほど珍しいことではないのだろう、信彦はいつも通り接客をして葉月のことも特に話題にはしない。  でも、きっと、多分、葉月は今日だけでなく明日も明後日も、ずっとこの「Tanaka Books」には姿を見せないだろうと七海は思った。  葉月が来なくなって信彦は不思議がるだろうし、残念がるだろう、と思うと七海は複雑な気持ちだった。  その日は晶も「Tanaka Books」に一日顔を出さなかった。  七海は店に誰かが入って来る度に晶が来たのだろうか、と思って「誰か」の方を注目したが、「誰か」は全て晶ではない「誰か」だった。  別に晶が来るのを待っているわけではないけど……と七海は心の中で呟いたが、晶がどんな表情で店に入って来るのだろうか、というのは気にはなっていた。  昨日のあの晶の真剣な表情(かお)……。  晶は自分が感じた通り、葉月が盗作しているということを見抜いていたのだろうか。  魔法使いがどの程度、人の心の中を見るとかそういうことができるのかわからない。もし葉月の心の中を見抜いていたとするなら、やはり晶は葉月が盗作してツラい思いをしていると悟って葉月に気を使っていたということなのだろうか。  いつものふてぶてしい晶からは想像もつかないけれど……。 (――あんな感じですが、根は本当は良い子なんですよ)  七海はふと自分が初めてこの「Tanaka Books」にバイトしようと入った時に、信彦が言っていた言葉を思い出した。  信彦の言う通り、晶は本当は意外にも「良い子」だということなのだろうか。  考えてみると、晶は自分が「この店で3ヶ月働いたら、魔法で願い事が一つ、何でも叶う」ということに「誰かを不幸にしたい」と言っても、「お前、思ったよりも面白そうなヤツだな」と言っただけで、「誰を不幸にしたいのか」とか「どうして誰かを不幸にしたいのか」とは突っ込んで訊いて来なかった。 (――まさか、あの人、私にも「気を使っている」とか?!)  七海は「まさか……」と思って、心の中で首をブンブンと横に振った。
/298ページ

最初のコメントを投稿しよう!

31人が本棚に入れています
本棚に追加