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七海はその日は一日、何とも言えないソワソワとした気持ちのまま仕事をした。
店の閉店間際になっても、葉月はもちろん、晶も姿を見せなかった。
「――今日、晶は七海さんのホットケーキを食べに来なかったですね」
閉店後、店の片づけをしていると、まるで信彦が七海の心の中を見透かしたかのように言った。
「えっ? あっ、はい、そうですね」
七海は思わず胸をドキドキさせた。
「晶が来ないの、気になりますか?」
信彦がニコニコしながら七海に訊いた。
「いえ、全然気にならないです!」
七海は信彦から顔を逸らすようにして、店の奥にある本を自由に読めるスペースの片づけをしに行った。
七海はテーブルを拭きながら、ふとスペースの奥のいつも葉月が座っていたイスの方を見た。
信彦は葉月に「自分の考えや期待を押し付け過ぎていたのではないかと思って反省しました」と言っていたっけ。
自分も葉月に自分の考えを押し付け過ぎていたのだろうか、と七海は今さらになって信彦と同じように反省した。
でも、例え自分の考えを押し付け過ぎていたとは言え、自分が葉月のことを本気で心配していたのは本当だ。
だって、あの葉月の暗い表情。
ああいう暗い表情をする人間が、後々どうなるか、自分には痛い程わかるから……。
七海がため息を吐いて再びテーブルを拭こうとした時、部屋の奥のドアの方から「ガタッ」と大きな音が聞こえてきた。
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