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七海は思わずビクッとして、ドアの方を見つめた。
もしかして晶なのだろうか、とも思ったが、ドアが開いて晶が入って来る気配はない。
そうすると、ドアの向こうで何か落ちたりしたのだろうか。
七海は部屋の奥のドアを開いた。
七海の身体に夜風が当たる。
ドアを開けると、そこにはビルの屋上の風景が広がっていた。
(――あれっ?)
七海は思わず後ろを振り返った。
後ろには階段がある。
(――私、いつ階段登ったっけ?)
いや、さっきまで自分は店の奥の本を自由に読めるスペースにいたはずだ。
前にもこういうことがあったな、と七海は思った。
初めて「Tanaka Books」に来た時、晶が魔法使いだと信じられないと言った自分に晶が雪を降らせた、あの時だ。
――と言うことは。
七海は屋上に入ると、キョロキョロと辺りを見渡した。
屋上の端っこの方に見覚えのある人影を見つけた。
アディダスのスニーカーにリーバイスのジーンズを履き、カーキ色の薄手のモッズコートを羽織っている。晶だった。
晶は片手に持った缶のギネスビールを飲みながら、ぼんやりと夜空を眺めていた。
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