31人が本棚に入れています
本棚に追加
/298ページ
「――お前、何やってんの?」
晶に話しかけられて、七海は慌てて「何でもありません!」と言った。
「何でもありません! ――で、でも、何で宮古島の星空なんて見てるんですか?」
七海は話題を逸らそうとした。
「別にいいじゃん。いつも同じ星空だと厭きるんだよ。それに、俺、宮古島なんて行けねーし」
晶はそう言うと、手元のギネスビールを一気に飲み干した。
そうだった……、と七海は思った。
晶はこのビルから出ると魔法が使えなくなるから、ビルの外に出られないんだった。
宮古島なんて、そう滅多に行ける場所ではない。
宮古島に行かないで一生を終える人なんて、日本中にそれこそたくさんいるだろう。
でも、宮古島に「行かない」のと「行けない」のとでは、意味が違う。
七海は「俺、宮古島なんて行けねーし」と言った晶の言葉に、晶の今の状況の重さを感じたような気がした。
それにしても、何度も思うが、どうして晶はビルの外では魔法が使えないのだろう。
「――あの」
七海は晶に話しかけた。
「何だよ?」
晶は飲み干したはずのギネスビールの缶のプルタブを抜きながら、七海の方を見た。
ビー玉のような晶の瞳が、七海の方を真っすぐに見ている。
七海は思わず目を逸らした。なぜかわからないが、やっぱり「どうしてビルの外では魔法が使えないのか」と訊けないような気がした。
最初のコメントを投稿しよう!