31人が本棚に入れています
本棚に追加
/298ページ
「でも、葉月さんが『実はあの小説、僕が書いた小説ではないんです』って言った時、全然驚いてなかったじゃないですか」
「盗作とかは知らねーけど、あいつのあの本、ノブさんから渡された時に、ヘンな感じがしたんだよ。違和感? って言うの? だから、あいつが自分が書いたんじゃないって言った時も、そういうことだったんだなって。――大体、あいつ、最初からヘンだなって思ってたんだよ。やたら暗いし」
自分が葉月に感じていた「意外」な気持ち、確かに晶の言う「違和感」に似ていると言えば似ているな、と七海は思った。
「だから、私に『あんまりあいつの前で小説書く話とか言うな』とか言ったんですか? 葉月さんがやたら暗いから、ますます暗くならないように……」
「知るか、そんなこと」
「えっ?」
七海は思わず横にいる晶のことを見上げた。
晶の瞳は相変わらずビー玉のように輝いている。バックにある宮古島の星空と同じくらいキラキラとしている。
「お前があんまりにもお節介しようとするから、言っただけに決まってるだろ? あいつのやることはあいつが決めればいいんだよ。他のヤツがとやかく言うことじゃねーんだよ」
「確かにそうですけど……」
七海はまた「ムッ」とした気持ちになった。
「でも、あいつ、あれで良かったんじゃね? あのまま他人が書いた小説のことでとやかく言われるよりは、さ。あれであいつも自由に生きられるってもんだよ。あいつの暗い表情、見てただろ? 他人に縛られる人生なんて、バカバカしいだけじゃねーか」
「――」
七海はまた横に立っている晶のことを見上げた。
――他人に縛られる人生。
何だか引っかかる言葉だな、と七海は思った。
引っかかるということは、自分も他人に「縛られている」ということなのだろうか。
いや、そんなことはない。
私は誰かに「縛られている」わけではない……。
最初のコメントを投稿しよう!