2. Songbird(ソングバード)

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「でも、葉月さんが『実はあの小説、僕が書いた小説ではないんです』って言った時、全然驚いてなかったじゃないですか」 「盗作とかは知らねーけど、あいつのあの本、ノブさんから渡された時に、ヘンな感じがしたんだよ。違和感? って言うの? だから、あいつが自分が書いたんじゃないって言った時も、そういうことだったんだなって。――大体、あいつ、最初からヘンだなって思ってたんだよ。やたら暗いし」  自分が葉月に感じていた「意外」な気持ち、確かに晶の言う「違和感」に似ていると言えば似ているな、と七海は思った。 「だから、私に『あんまりあいつの前で小説書く話とか言うな』とか言ったんですか? 葉月さんがやたら暗いから、ますます暗くならないように……」 「知るか、そんなこと」 「えっ?」  七海は思わず横にいる晶のことを見上げた。  晶の瞳は相変わらずビー玉のように輝いている。バックにある宮古島の星空と同じくらいキラキラとしている。 「お前があんまりにもお節介しようとするから、言っただけに決まってるだろ? あいつのやることはあいつが決めればいいんだよ。他のヤツがとやかく言うことじゃねーんだよ」 「確かにそうですけど……」  七海はまた「ムッ」とした気持ちになった。 「でも、あいつ、あれで良かったんじゃね? あのまま他人が書いた小説のことでとやかく言われるよりは、さ。あれであいつも自由に生きられるってもんだよ。あいつの暗い表情(かお)、見てただろ? 他人に縛られる人生なんて、バカバカしいだけじゃねーか」 「――」  七海はまた横に立っている晶のことを見上げた。  ――他人に縛られる人生。  何だか引っかかる言葉だな、と七海は思った。  引っかかるということは、自分も他人に「縛られている」ということなのだろうか。  いや、そんなことはない。  私は誰かに「縛られている」わけではない……。
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