2. Songbird(ソングバード)

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「――よし!」  晶は2本目のギネスビールを飲み切ると、クシャっと缶を握りつぶした。「お前さあ、ホットケーキ作れよ」 「えっ? 今からですか?」  店の片づけが済んだらそのまま帰ろうと思っていたの、と七海は思った。 「いいじゃん、作れよ。昨日、ノブさんがチョコレートソースを買ってきたはずだから、今日はそれかけろよ」  チョコレートソースって……。七海はやっぱりこの人は子供だな、と思った。 「――わかりました」  七海は「ムッ」とした表情をして答えたが、ふと、もう葉月が自分のホットケーキを食べることはないんだろうな、と思った。  でも、もう自分のホットケーキを食べられなくたって、それはそれで良いのだろう。  晶の言う通り、葉月はこれから「自分の人生」を生きていくのだから。  葉月のこれからの人生に、自分のホットケーキは必要ないし、あの「ソングバード」の小説も必要ないのだ。  必要ない、というよりは、断ち切らなければいけなかった、と言えば良いのだろうか。  七海は「お腹空いたな」と言いながら先を歩き始めた晶の背中を見つめた。  信彦は晶のことを「あんな感じですが、実は本当は良い子なんですよ」と言っていたが、その言葉は本当なのかもしれない、と七海はぼんやりと思っていた。
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