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3.
「こんな感じでどうでしょうか?」
店の閉店後、七海は書きあげたPOP広告を信彦に見せた。
「素晴らしいじゃないですか! 早速飾りましょう」
「ありがとうございます!」
信彦はレジの近くの棚に平積みになっている「魔法使いジョニー」シリーズの最新刊の横に、七海の書いたPOP広告を置いた。
七海が「Tanaka Books(田中書店)」でアルバイトを始めて1ヶ月が経った。
七海は店の仕事にもすっかり慣れて、常連のお客さんと何気ない会話を楽しめるようになったし、こうやって店に飾るPOP広告を書いたりするようにもなっていた。
「本当、七海さんは優秀ですね。POPを書くのも上手いし、お客さんも『良い娘が入ってきたね』って僕に言って来るんですよ」
「本当ですか?」
信彦に言われ、七海は嬉しそうな笑顔を見せた。
会社が突然倒産して成り行きで始めた「Tanaka Books」でのアルバイトではあるが、七海はこの本屋での仕事がどんどん好きになって来ていた。
大好きな本に囲まれての仕事はもちろん楽しいし、意外と接客の仕事自体も面白い。次女の七海は少々内弁慶なところもあるが、学生の頃に大手ファーストフードでアルバイトした経験もあるし、慣れてしまえばお客さんと接するのもすごく楽しくなってきた。
そして、一緒に働いている店長の信彦の人柄も素晴らしい。お客さんへの接し方も自由にやらせてくれるし、ちょっとしたことをしても「ありがとうございます」とお礼をちゃんと言ってくれる。
かと言って、何かトラブルが起きたとしても、七海任せにせず、ちゃんと最後まで責任を持って対応してくれる。
良い人の元で働けて良かった、と七海は心の底から思っていた。
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