First Holiday

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 1 「──これとそれと……おお、これも頼む。すべて二百グラムでな」  朝はベーグルをかじり出社して、退社した足で馴染みの総菜屋に寄り夕飯を選ぶ。この一連のルーティンが、ニューヨークに来てからのおれの日課だ。  足繁く通っているからか、店のマダムはおれを息子のように可愛がってくれる。いつも何かしらおまけをつけてくれるから、腹に満足感を財布に優しさを(もたら)してくれるのだ。 「すまぬな。また明日もくる」  金を払いマダムに礼を言うと商品を受け取る。  渡米から一週間ほどして執事のバスチアンがおれを案じ追いかけてきてくれた。おかげでホームシックにならずに済み、一切の家事も引き受け快適な暮らしが保証されたことには感謝をしている。  だがひとつ問題があってな。バスチアンは……料理ができないのだ。  執事とはみな料理が下手なのか、伊織の執事サマンサも料理が壊滅的に下手だというが、これは都市伝説でも執事七不思議でもない──明らかなる真実なのだ。  おかげで毎日仕事帰りにおれとバスチアンの飯を仕入れて帰るという、なんとも所帯じみた尻敷かれ亭主のような日々を送っているのだが……。  本来ならば執事が主人の飯の買い出しをするものではないのだろうか。いや、握り飯は作ってくれるが……これは一度、真相を確かめるため伊織に連絡を取るべきか。  店を後にするとアパートに向け足を進める。あと五百メートルというところで、天気予報にはなかった雨に降られ立ち往生。  一気に走って済ませるかとも考えたが、あまりの豪雨に二の足を踏んでしまう。  仕方がなく近くの花屋の軒下で雨宿りさせてもらえるよう店主に断わると、スマホを取り出し傘を届けて欲しいとバスチアンに救難信号を送ることにした。
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