First Holiday

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 コールが一度二度と鳴り、五度過ぎても受話される気配がない。そしてとうとう留守番サービスに接続されるという、なんとも主人想いではない結果となってしまった。 「──にゃにおうっ!!」  思わずスマホに向かってそう叫ぶ。  ぎりぎりと歯ぎしりをしていれば、どこぞから「くすくす。あはは」と鈴を転がすような笑い声が耳に届く。 「ぬぬっ。誰だ」  あたりを見渡し笑いの主を探してみるが、声をあげる者は見えず頭部に疑問符が浮かぶ。すると突然のこと、おれのひざ裏が文字どおり”かっくん”となり、支えが利かず地面にひざをつく。 「ぬあっ──にゃにおするっ!」 「あははっ。やーいひっかかった。”ぬあっ”だって、オッサンいったいどこのキングだよ。それもマヌケなキングだね。あはっ、ぼくオッサンのこと気に入っちゃった」  どうやらおれに”ひざかっくん”を仕かけたのは、今おれの背で話しかける男児のようだ。とっさのこと故体勢をととのえるのに時間がかかり、反応が遅くなってしまう。  おそらくは声の感じから察するに、背の者は十五から十七歳といったところか。若干高めではあるが変声期を終えた男児、はやい話がいたずら好きの小童(こわっぱ)だ。  どうでもいいが打ちつけたひざが痛い。声をととのえ咆哮する。 「にゃにおうっ!! 誰がオッサンだ。おれはまだピチピチの二十二歳、オッサンなど失敬な謂れはないぞ。だいたい初対面の、しかも目上の者に対し──」 「……どうしたの?」  ふり返り文句をぶつけ───そして時が止まってしまった。
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