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レインと出逢った雨の帰り道。あやつは自分のが羽織る水色のレインポンチョを脱ぐと、「これ着ていきなよ」とおれに差し出してきた。
いくらオッサンではないとはいえ、成人した大の男が愛らしいポンチョなど五百メートルとて恥ずかしくて着用不可だ。
即座に断ると不在着信に気づいたバスチアンがタイミングよく連絡を寄越し、傘を頼むと現在地を伝えて難を逃れた。
せっかくの好意をとレインは難色を示すが、けれどおれにも男のプライドというものがある。どうにか理解してもらうと傘を手に迎えにきたバスチアンに礼を言い、ついでにレインにも礼を述べて逃げるようにその場を去った。
正直なところを打ち明けるとレインに物を借りたくなどなかったのだ。
あやつは秋良に似ている。だが当然ながら秋良ではない。夢か真かまやかしか、幻想やデジャヴに惑わされるなどまっぴらだ。おれにとって秋良はひとりしか存在せん。
それは日本にいて伊織と愛を育む、おれが見初めた本物の愛しき者だ。ニューヨークは花屋の軒下なぞに存在などするわけはなく、ましてや秋良はレインのように生意気ではない。
もう二度と逢うこともないだろうと、要らぬ記憶を脳から消し去ることにした。
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