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突然ふって湧いたようなレインの存在に悩まされること二週間。
雨の日に嵐のような出逢いをしてからというもの、あやつはことある毎におれのまえに現れてはイタズラをしかけてくる。
どこから湧くのやらと不思議で仕方ないが、それ以上にあやつの素行が謎すぎて敵わん。いったいレインは何者なのか、それすらおれは知らないのだ。
おれのことは根掘り葉掘り知りたがるくせ、自分のことはひとつも話そうとはせん。触れて欲しくはないのかと表情で察するが、それにしてもおれにだけ素性を明かせとは誠卑怯ではないか。
ともあれおれの精神的疲弊は著しく、この二週間で業務にまで支障をきたす始末だ。
それどころか部下にまで気を遣わせてしまう羽目となり、先刻など「お疲れですか」と心配され「少しお休みされては」と仮眠を取るようナップルームを進められてしまった。
いくら上司はといえ元は兄である初春のポストに就いただけの仮上司、三年から場合によって五年の任期というつなぎの立場である身だ。これ以上は肩身を狭くしたくない。
もちろん部下たちは純粋におれを心配してのこと、言葉に含みなどない清らかな想いであるのだ。けれど彼らに気を遣われるほどに、おれ自身の未熟さや無能ぶりを思い知らされる。
仕事にプライベートを持ち込むなどもっての外、だが現在進行形でおれはレインに頭を抱えている。それが業務にまで支障をきたすのは己の弱さだ、しかしそれを打破するには───
「……仕方あるまい。レインには悪いが」
もうおれに関わるなと拒絶を言葉にするしかない。
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