First Holiday

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 残業をすることもなく本日の業務も無事終了、部下たちを労い最後におれもオフィスを後にしてエレベーターへ。一階に到着エントランスに向かうにつれ足取りは遅くなっていく。  あれだ。どこぞに隠れているのだ。小童レインが。  おれに泡を食わせようと待ち構える小悪魔が、今も物陰に潜み目を光らせている。だが今日のおれは一味違う。あやつに怯むことなく立ち向かい、言ってやるのだ「迷惑だ」と。  多少は胸も痛くなるだろうが、けれどもうレインに振りまわされたくはない。秋良に似たやつと関わるなどまっぴら御免、これ以上おれの心をかき乱さないでくれ。 「チェスト──っ!」 「ぐぬぁあっ」  突然のかけ声につづき稲妻の如し衝撃が走ったおれの尻。割れ目から火が出るかというほどの痛みと食い込みを感じ、飛び上がり様に前のめりとなってしまう。 「きゃははっ。やーい、またまた変な声。ねえそろそろさ、気配で察知しようよ。感知能力と反射神経が死んでんじゃないの?」  回転ドアの五歩手前で蹲るおれの背に、情け容赦のないセリフがつき刺さる。  手で尻を押さえ痛みに耐え悶えるおれに対し、かける言葉がそれか。人目も憚らず破廉恥にもカンチョをしておいて、このジャリ小童めどうしてくれようか……。  ふうふうと痛みを吐き捨てるとすっくと立ち上がり、背後に身体を向け用意しておいた言葉を感情なく伝える。 「レイン。ここは子供の遊び場ではない、意味もなくうろつくのはやめてくれ。それからおれのまえにも現れてくれるな、二度とだ。……迷惑だ」
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