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「何だ」
「ぼくは秋良の代わりじゃない?」
「当然だろう。いくら顔かたちが似ていようと心は別だ、レインはレインだ秋良ではない。おまえの顔に惚れたわけではないのだ、おれはおまえの心に惹かれたのだから」
こやつの声、草原のような匂い。いたずらが成功したときにみせる勝気な笑顔。すべてが秋良とは似つかぬレインだけの特質、そのどれもがおれにとっての愛しき宝なのだ。
真っすぐにおれを見るレインの視線、嘘か真かを見極められているようだ。偽りなどひとつもないのだ、おれもレインのまなこに重ねて裸の心を晒す。
「うん、わかった。……あのね、ぼくも基睦が好き。えへへ、うれしい」
おれの腰に腕をまわすと、ぎゅっと抱きついてくる。頬を赤らめ恥ずかしそうに笑うレインに心臓を鷲掴まれ、やっとおれだけの存在となったという甘美な喜びに胸が震えた。
「レイン……おれの宝……ma cherie──」
歯の浮くような臭い科白だとの苦情は受けつけん。これまで我慢してきたものがぷつりと切れた。おれとて健全な男なのだ、解き放たれてしまってはもう止まれはしな──
「わわっ、ちょっ、ちょちょっと待って待って。タイム、待て基睦っ」
「って、にゃにおうっ! 犬みたいに言うなっ。せっかくのムードが台無しではないか、どうして盛り上がりをみせた心のナレーションを止めるのだ。好き同士ならばセックス──」
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