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おれが言い終えるなりレインが息を呑むのが分かった。子供の身に向けるには厳しい言葉だったと自覚するが、たとえ大人げなくともこやつをつき放すには仕方のないこと。
潤む瞳をおれに向けるレイン。かなり胸が痛むが、ここは心を鬼にして踵を返すと会社を後にした。とはいえ一メートルも進めば足が鉛のように重く、今にもひき返しそうになるのを堪えるので精いっぱいだ。
すまない、レイン。許してくれ。心のなかで謝ってお───
「ばあかあ──っ!」
「ふぼぐあっ!!」
ズダダダダと砂煙をあげそうな駆け足の音が聞こえたかと思うと、今度は背をフライパンで殴られたような衝撃が走った瞬間おれの身体が吹っ飛んだ。
レインだ。あやつがおれに渾身のドロップキックをかましてきたらしい、ぷるぷると震えながら「ばかあ、ばかあ、オッサンのばかあっ!」と泣き叫んでいる。
どうでもいいが、誰かおれに手を貸してはくれんか。顔から路上につっ込み起き上がることができん。死体を囲むチョーク・アウトラインのようになってしまったではないか。
やれやれとため息をつきながら自力で立ち上がると、スーツにつく砂汚れを払いレインに目を向ける。彼のまえに立つとポッケからハンカチをだし……。
「おれが悪かった。少しきつく言いすぎたか、お願いだ泣き止んでくれ」
ぽろぽろと頬をつたう大粒の涙を拭き取ってやりながら、心からの謝罪を伝えて機嫌を取る。するとレインは「少しじゃないよ、マグナム級のきつい言葉じゃん」と非難、それからおれに抱きつきその後はわんわんと大泣きだ。
やはりこれはおれが悪かったのだろうか───
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