First Holiday

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 3  レインに泣きわめかれてしまっては途方に暮れるしかない。  仕事終わりのオフィス街とはいえ外野は多く、周りに群がる者はみなおれを子供を泣かす外道のような目で見る。  さすがに居た堪れなくなってしまい、つい余計なことを口走ってしまったのだ「アパート(うち)に来るか」と。  それまでナイアガラの滝が如く滂沱(ぼうだ)の洪水だったのがぴたりと止み、すぐさまレインは目を輝かせ「うん、いくっ。えへへ」と無邪気に笑い抱きつかれた。  不覚にも胸が躍り血圧が上昇したではないか。いや、ただの不整脈に違いない。秋良以外がおれの心に侵入するなどありはしないと納得すると、レインの頭をわしゃわしゃ撫で倒し「ついて来い」と歩きだす。  途中で総菜屋に寄り夕飯を仕入れて帰る。  今日はレインも含め三人分のメインディッシュを購入、店主のマダムに「おや今日は可愛い子を連れてるねえ」と冷やかされ言い訳に努めた。  その後はアパートまでの道のりが多少気まずかったもの、となりを歩くレインはおれの気も知らずに鼻歌まじりときた。やれやれ、やはり小童に関わると疲れるぞ。 「ここがおれのアパートだ」  日本人向けに建てられたセキュリティーの高いアパートメント。比較的新しい建物だが景観を損ねぬようビンテージ加工が施された外装で、見た目には歴史ある建物に溶け込んでいる。 「へえ、いいとこに住んでるじゃん。基睦って金持ちなの?」 「ぬっ、おれは一般所得者だ。要らぬことを言ってないでついて来い」  置いてくぞと脅してやれば、「ただ訊いただけじゃん。オッサンのケチンボ」と返ってきた。どうでもいいが、そろそろオッサンはやめてくれないかと心で泣いておく。
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