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First Holiday
まぶたを閉じれば容易に浮かぶあやつの顔。だが最近は少しばかりかすみがかったように輪郭が陰り、いつか忘れてしまうのではないかという不安と怖れに襲われる。
だがたとえそうだとしてもおれが選んだ道だ、絶対に後ろなどふり返らず前進あるのみ。そうすればきっと、いつしか心穏やかに過去の善き日を懐かしむことができるはずだと信じてやまん。
オンとオフを切り替える術はこの一年で嫌と鍛えられ、ふさぐ日もあれ変わらず笑顔で過ごすことはできている。
入社すぐにおれはポストつきでオフィスに就いたが、部下となってくれた者たちは不平など微塵と漏らさず会社とおれに忠義を尽くしてくれ、めまぐるしいがやりがいを感じている次第だ。
どうかこのまま残りの任期をそつなく終えられるよう切に祈るばかりだ。
だがしかし。
どうにからなんのか、あの小童め。突如として現れたかと思えば、おれの唯一の楽しみでもある秋良妄想タイムの邪魔をするばかりか、隙あらば悪絡みをしてくるではないか。
まったくもってプライベートのプの字もない。こうも毎日のように突撃してこれられると精神的にも参ってしまう。なぜか。あやつが、あの小童が……秋良に瓜ふたつだからだ。
ついドッペルゲンガーかと叫んでしまいそうな小童──レインとの出逢いは、残業を終えビルを出た道すがらでの出来事がきっかけだ。
朝の天気予報にはなかった雨に降られ、雨宿りをしているおれにポンチョを───
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