第一幕

5/23
前へ
/133ページ
次へ
 社長はセンスのあるワルヒト以外にソロ活動を認めず、他のメンバーはテレビなどに単独で出さなかった。過去に事務所の売れっ子を酷使した結果、よその事務所に逃げられた経験があったのと、近年ありがちなテレビに出しすぎて飽きられ、一発屋になるパターンを恐れ、出し惜しみをするという戦略を取っていた。  日曜の晩八時に放送される「アクト・ナチュラリー劇場」という一時間番組が、彼らに与えられた唯一のレギュラー番組だった。 月曜から会社や学校に行く人達に、楽しく週末を終えてもらおうというコンセプトで作られた「アクト・ナチュラリー劇場」は、幸い好評を博し高視聴率を得ている。見せ場が前半二○分間の大掛かりなコントで、幕間にアイドルの歌などを挟み、最後にショートコントを何本か演じるというのが番組の構成だった。  ドリフの全員集合のパクリじゃないかという批判もあったが、ワルヒトが「そうですよ」と全面肯定したことがかえって潔いという評価を得て、現在に至っている。 「本家ドリフは生放送だったけれど、うちはヘタクソばかりなので収録だ」と開き直ってもいた。  番組の収録は金曜日に行われる。  毎週、ワルヒトが忙しい合間を縫ってコントの下地をいくつも作り、それを構成作家が台本に仕上げる。収録後の土曜だけが休みで、日曜から木曜は稽古ということになる。その間はワルヒトに罵倒される日々だった。金曜の収録も、ワルヒトが納得しないと何度も撮り直すことになるので、早朝から深夜まで及ぶこともあった。     
/133ページ

最初のコメントを投稿しよう!

16人が本棚に入れています
本棚に追加