第一幕

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途中、松倉の脱走というアクシデントもあったが、地道なライブ活動や、各種お笑い番組でコントを披露しては徐々に面白いという評価を受けるようになり、二年前、ついに自分たちがメインのレギュラー番組を持つに至った。ファンからは「アクナチ」と略称で呼ばれ、親しまれている。  リーダーとして君臨し、メンバーを罵倒し、ギャラの半分を持っていくのが、ワルヒトこと佐渡晴人だった。  四五歳で最年長、長身で威圧的で、声が大きく、頭も切れるワルヒトはメンバーにとって憎たらしい存在だった。しかし、彼がいないとシナリオひとつまともに作れないのがメンバーたちの泣き所でもあった。 ワルヒト以外ははっきり言って烏合の衆だった。気の利いたことも言えるメンバーもいない。フリートークなどもってのほかで、誰かがボケたところで鋭く突っ込めるセンスがあるのもワルヒトしかいなかった。 実際、ワルヒトのシゴキがあまりにひどいので、自分たちだけでも何かできないかやってみようと、一度、ワルヒト以外のメンバーだけでコントライブを試してみたことがあったが、さっぱりウケなかった。ワルヒトがいないとダラダラして締らないのである。 つまり、ワルヒトの悪態に日々腹を立てるメンバーたちだったが、彼につまみだされたらその瞬間露頭に迷うことになるので、彼らは毎週、罵倒されながらも稽古を続けるしかなかったのだった。     
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