第一幕

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「それがさ……町の教育長というのが中学のときの担任でさ、うるさい奴で大嫌いだったんだけど……そいつが今度町長選に出るらしくて応援演説に来いと言われてさ。断っていたんだけど、うちは商売もしているし、弟が役場に勤めているから断れきれなくてさ」 「なんとまあ……」  マルオが気の毒という表情でつぶやいた。  カゲオのふるさとは北陸にある海辺町という日本海に面した寂れた町で、実家は「影ノ屋」という乾物屋を経営していた。  男ばかりの三人兄弟の真ん中である。それも一歳違いの兄弟だったため、真ん中のカゲオはあまり親からかまってもらえなかったと思っている。  影山という苗字が海辺町には多かったので、どこの家かわかりやすいよう名前の一部に決まった文字を付けるのが伝統となっていた。  カゲオの実家は「忠」がその文字になる。  父親は忠一といい、兄は忠彦、弟は忠久といった。  兄はしっかりもので子供の頃から人望があった。今は家業を手伝っている。地元青年団のリーダーも務めているそうだ。  役場勤めの弟は愛嬌があり、かわいがられるタイプだった。コネで役場に入り、要領よく立ち回っているらしい。  真ん中の忠男……カゲオはふたりに比べると存在感の薄いタイプだった。  気が弱く、運動神経も悪く、小柄で口下手だったので、根性の曲がったいじめっ子たちの絶好の標的となり、暗く鬱屈した少年時代を過ごした。良く言えば「いじられキャラ」、正直に言えば「いじめられっ子」だった。     
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