第一幕

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 人口が少ない田舎町のこと、第二次ベビーブーム世代とはいえ、一学年に二クラスしかない学校では置かれた立場がずっと変わることはなかった。カゲオの方も根性が曲がってしまい、小学生にして「人生に疲れた」などとつぶやく、何事も後ろ向きな性格になっていた。  高校卒業後、かろうじて東京にある中堅レベルの大学に合格したので、逃げるように町を出た。どうせ店は兄が継ぐようになっていたし、東京に行くことは特に反対されなかった。期待もされていなかったと思っている。それでも親は学費と住居費は出してくれた。遊ぶ金は自分で稼げと言われたが。  その後、数えるほどしか地元に帰っていないし、帰省したのはいずれも有名になる前のことだった。 「ちょっと憂鬱」などと言ったが、実際はかなり憂鬱だった。  弟の話によると、海辺町の現職町長は高齢だったので長期政権からの引退を表明し、教育長を後継者に指名したらしい。おりしも、海辺町に産業廃棄物処理場を作るかどうかということで、町はふたつに分かれており、教育長と対抗馬との間は接戦と噂されていた。教育長を推す陣営としては、カゲオを目玉にして対立候補と差を付けたいと考えたのだろう。  カゲオ自身は過去の経験から、この那智という苗字の教師が大嫌いで、教育長になったと聞いたとき、海辺町の教育レベルはそんなに低いのかと思ったほどだった。     
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