100年前の遺品

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    ◇◆◇  曾祖父(ひいおじいちゃん)が亡くなった。  曾祖父は穏やかな人で、いつも私たちの会話をにこにこして聞いているような人だった。 でも私と2人だけのときには、高祖父(ひいひいおじいちゃん)から聞いたお城の話をよくしてくれた。 ぽつり、ぽつりと語る曾祖父の側で、私はその景色を思い描きながら聞くのが好きだった。  日々の業務、きらびやかな城内、夜通し行われる舞踏会―― 兵士のなかでも優秀だった高祖父は、よく城内の警備をしていたらしく、色々な情報が比較的入って来やすかったそうだ。  そんな話をどこかのおとぎ話のように語る曾祖父も、私は大好きだった。 お城の話は華やかで、でも人間味があって、何より高祖父との思い出だったのだろう。 この話をする時の曾祖父は、いつもどこか生き生きして見えた。 「ひいおじいちゃんも、随分長生きしたものね」  葬儀を終えて帰ってきたリビングの椅子に、力なく腰掛けたお母さんが呟いた。 身内との死別に重ね、慣れないイベントに、私たちも疲れ果てていた。 「近々、整理もしないとな。まだ書斎の本、山積みだったよな」 「私も手伝う。その代わり、欲しいものあったら貰っても良い?」 「父さんは構わないけど、おばあちゃんに聞いてごらん」 「分かった」  足が悪くて参列できなかった祖母(おばあちゃん)に声を掛けると、「おじいさんもその方が喜ぶよ」と快諾してくれたので、翌日から、私は曾祖父の書斎を片付け始めた。
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