21人が本棚に入れています
本棚に追加
◇◆◇
曾祖父が亡くなった。
曾祖父は穏やかな人で、いつも私たちの会話をにこにこして聞いているような人だった。
でも私と2人だけのときには、高祖父から聞いたお城の話をよくしてくれた。
ぽつり、ぽつりと語る曾祖父の側で、私はその景色を思い描きながら聞くのが好きだった。
日々の業務、きらびやかな城内、夜通し行われる舞踏会――
兵士のなかでも優秀だった高祖父は、よく城内の警備をしていたらしく、色々な情報が比較的入って来やすかったそうだ。
そんな話をどこかのおとぎ話のように語る曾祖父も、私は大好きだった。
お城の話は華やかで、でも人間味があって、何より高祖父との思い出だったのだろう。
この話をする時の曾祖父は、いつもどこか生き生きして見えた。
「ひいおじいちゃんも、随分長生きしたものね」
葬儀を終えて帰ってきたリビングの椅子に、力なく腰掛けたお母さんが呟いた。
身内との死別に重ね、慣れないイベントに、私たちも疲れ果てていた。
「近々、整理もしないとな。まだ書斎の本、山積みだったよな」
「私も手伝う。その代わり、欲しいものあったら貰っても良い?」
「父さんは構わないけど、おばあちゃんに聞いてごらん」
「分かった」
足が悪くて参列できなかった祖母に声を掛けると、「おじいさんもその方が喜ぶよ」と快諾してくれたので、翌日から、私は曾祖父の書斎を片付け始めた。
最初のコメントを投稿しよう!