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私たちは、寝静まったリビングで、小さな火を点した暖炉を囲んだ。
特別凍えるほどではないけれど、セントールの夜は冷える。
部屋の明かりもかねて、暖炉の周りに右から私、アユム、タクヤの順でラグの上に座った。
パチパチと火の粉を散らす様をしばらく眺めてから、アユムはおもむろに顔を上げた。
「さて、まずは聞かせてもらいましょうか」
それを合図に、私たちを取り巻く空気がピンと張りつめたものに変わった。
暖炉の火が反射して、アユムの目はますます赤くなる。
見慣れない色に、私は不思議な緊張感を覚えた。
「……私も、どこで気づかれたのか分からないんだけど」
私は、速まる鼓動を落ち着かせようと、ゆっくり話し出す。
城内見学が終わって広場に戻ってくると、大きなボタンの衣装の大道芸人が道行く人にチラシを配っていた。
どうやら、今夜のショーの案内らしい。
私も女の人からチラシを受け取ったのだけれど、大して興味を引くようなものでもなかった。
そもそも、私は大道芸にあまり関心がない。
それなのに、彼らの見世物小屋に足を運んだのは、いつもと違う環境のせいか、それとも、写真の人物に1歩近づいて、浮わついていたからだと思う。
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