100年前の遺品

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 私は、教えてもらった住所を探して町を歩き回っているうちに、ひらけた場所へ出てしまった。 そこには、沢山の屋台が出ていて、少しだけ村に似ているだなんて思いながら、人の波を避けて歩く。  すると突然、どこからか陽気な音楽が流れてきて、鈴の音と共に、広場にいた人々の頭上を1つの赤い玉が飛んでいった。  その着地点には、大きなボタンを飾った洋服の男の人が立っていた。 赤い玉が手元に来るのを見計らって、同じ大きさのカラフルな玉を次々と空中に放り投げた。  男の人は、沢山の玉を代わる代わるキャッチしては、何度も空中へ飛ばしていく。 赤い玉もすんなりとその軌道に乗り、他の玉と一緒に円を描いた。 そして男の人の手に帰る度に、軽やかな鈴の音が鳴り、またそれが流れている音楽と同じリズムを刻んでいた。 「大道芸人か。久しぶりだな」  私の近くに立っていた恰幅のいいおじさんが、口ひげを撫でながら呟いた。  どうやら、大道芸が始まったらしい。  どこにいたのか、次々と揃いの大きなボタン服の人達が集まってきて、ジャグリングしている男の人の側で、色々な芸を披露していく。 背の高い一輪車に乗る人、女の人を肩に乗せてポーズをとる人――  興味をひかれるけれど、私は大道芸を楽しむ心の余裕がない。 こんな人混みの町で、たった一軒の家を見つけなければならないのだから。
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