100年前の遺品

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 ふと辺りを見渡すと、一際大きな建物があることに、ようやく気がついた。  独特な三角形の屋根と圧倒的な大きさ。 「あれが、フィール城……」  さっきまでは、私より背の高い大人達をかき分けるのに必死で、下ばかり見ていた。 けれど、ちょっと視線を上げれば、それはどっしりと何百年も変わらない姿で立っていたのだ。  歴代の国王が住んでいた城。 そして、私の高祖父やその妹さんがお勤めしていた場所。  今は、観光地として城内を見学することができる。 そして私が今回の件で、最も重要視している場所だ。 あの写真(・・・・)が、どこで撮られたものなのかだけでも分かれば、男の子の情報に繋がると思ったからだ。 メイド服を着たまま写真を撮ったのなら、城内である可能性が高いと、私は睨んでいるのだ。  首に提げていたロケットを服の下から取り出して、私は改めて写真を眺めた。 手がかりは、かなり限られている。 それでもこの町でなら、何か分かる気がしてならない。  城内を見学するためにも、居候するのに持ってきた大きな荷物を早くなんとかしたい。  ロケットを再び服の中にしまうと、今度はポケットから住所のメモを取り出す。 聞き慣れない地名に、見慣れない町並みは、ますます私を迷子にさせるけれど、このくらいで負けてはいられないと、私は鞄を握り直して人波をくぐっていった。
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