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「わかった。それなら、俺はネオニトを辞める!」
「気でも違ったか!?」「貴様働く気か!?」「なんてこった正気の沙汰じゃない……」「ナンマイダブナンマイダブ」
複数人に物理的に引き留められながら、それでもなお俺はその輪を抜けるため歩みを止めなかった。
働きたくない。俺はほんの一瞬だって働きたくないのだ。
「待ちなさい」
その時、暗闇の向こうで声がした。
そして、どういう原理かはわからないが、その声の人物だけにスポットライトが当たる。周りに照明器具は無いのだ。
スポットライトに浮かび上がるシルエット。それはSMクラブに居そうな女王様が着ているようなボンテージ姿の金髪美女(と言っても仮面舞踏会に出てくるようなマスクを着けているため、その正体はわからないが)がいた。
彼女の名前はトリダー・バイ。手には鞭を持っていることからもわかるように生粋のSッ気女王様だ。
「ネオニトに足抜けは許されないわ」
トリダー様は鞭をグルんと振るうと、空中でパチンという乾いた音を鳴らした。
さすがトリダー様だ。鞭をあんなに綺麗に鳴らすまでにはかなりの練習が必要なはずだ。
しかし、俺の決意は硬かった。
「嫌です。俺はこれ以上働かされるくらいなら、ここを抜けます」
「働くって、高々三ヶ月に一回で、しかも一夜限りよ!?」
「……認めたな! 働くって認めたな!? やっぱり俺らは働かされていたんだな!?」
「あ……」
トリダー様は焦ったように顔背けた。
「許さないぞ……俺の気持ちを弄んだこと……許さないぞ!!」
「……くくくく……あーはっはっは!」
トリダー様は高らかに笑っている。
「……ここまでバレちゃあしょうがない。そうだよ! 三ヶ月に一回くらい働いてもらわないとねネオニトがやっていけないんだよ! シャバ代も高熱ガス代も、タダじゃあ、ないんだよ! あーはっはっはっは!」
「やっぱりか……ちくしょう……ちくしょう!」
俺は歯噛みし、拳を握りながら涙した。
「ふふ……まぁ、そういうわけだからね……また三か月後、よろしく頼むわよ!!」
「お断る!!」
「なんですって……? この私に歯向かおうって言うの?」
「そうだ!」
俺は半身を取って身構える。
「働くくらいなら……俺は戦って死ぬ!」
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