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──…私は馬鹿だ。
こんな事して、大馬鹿だ。
土壇場になって逃げて、泣いて、ぐずって、皆に迷惑かけて。
わたちゃんを、悲しませた。
(わたちゃんっ……!わたちゃん、わたちゃんっ……!)
ぶわっと涙を浮かべた後、マッシーモはおへそに力を込めた。
「…っ、う~~~っ…」
ギッと目を閉じて、すっくと立ち上がる。
そして、顔をバンッと叩いた。
「わたちゃん、ごめん!皆もごめん!私……私ね──」
涙を拭って、叫んで、気合いを入れ直す。
「わかったよ。わかってるよマッシーモ。もう、人騒がせな……」
すえちゃんは、笑いながらマッシーモの肩を小突いた。
みのは「うん、うん。化粧落ちちゃったから直そうね」ともらい泣きしながら、ウィンドブレーカーのポケットに忍ばせていた化粧ポーチを取り出してアイラインを描き直してくれた。
「よし!んじゃあ振りの最終確認しよっか」
わたちゃんはもう、いつものあっけらかんとしたわたちゃんだった。
「ここで?」
「トイレだよ?」
「人来たらよける!」
笑い声で、いつもの和気あいあいとしたムードに戻る。
みのに化粧を直してもらいながら、マッシーモも笑った。
──ありがとう。ごめん、ありがとう──
目尻から涙が出てまた少しアイラインが滲んでしまったが、マッシーモはもう気にしなかった。
この時のマッシーモは、まだ知らなかった。
竜目祭からの数日後、わたちゃんがお父さんの仕事の都合で転校することを。
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