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3ヶ月前の話。一つ上の先輩の引退試合。
その日私の100メートルの成績は振るわなかった。私の結果が先輩たちの引退に響くわけじゃなかった。だけども一生懸命やっている先輩たちに、不甲斐ない成績で水を差してしまったと感じた。私は心が張り裂けそうになった。
そんな居た堪れない私に岡部は近づいてきた。
「今日どうした。足の調子、よくなかったのか。」
私は驚いた。「調子が良くない」と言う、思いがけない言い訳の光が差したから。普段から私は言い訳をするくせがあった。だからすらすら言えたのかもしれない。
「実は、姪っ子の赤ちゃんをうちで預かっていて。倒れそうになったところをかばってしまって左足が・・・。」
そう私は言ってしまった。私はその日、先輩の前でも、先生の前でも、後輩から預かった保冷剤で痛くない左足を押さえた。後は応援席でぼんやりと競技を見るだけだった。もうトラックで走る選手たちが選手には見えなくなってしまった。たくさんの足が騒々しく感じた。夏の日だった。
「ごめんなさい。」
白の編み編みのキャビネットに化粧品を並べながら、そんな独り言を呟いていた。
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