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渡りろうかでイライラしながら待つ王のもとへ、ようやく、ゲイルがもどってきた。
心なしか顔色が青い。
「待ちかねたぞ」と、王は困惑しながら言った。
ゲイルは青の姫を迎えにいったはずなのに、姫の姿がない。
「して、姫はどこに?」
王が問うと、ゲイルは首をふった。
「姿が見あたりません。部屋のなかには、この鳥が」
鳥かごに入れられた例のしゃべる鳥だ。鳥は姫の声で話した。
「ゲイル。ゲイル……シテル。ツタエテネ」
ゲイルは申しわけなさそうに、王の前にひざをつく。
「この声が聞こえたので、てっきり部屋のなかにいるものとばかり。しかし、今朝の城内の不穏な空気を読みとり、ひそかに逃げだしたあとだったのでしょう」
「なんということだ。姫のいる城郭は、ここ以外に出ていく場所がないのではないか?」
「夢みる塔は湖岸に接しています。前もって舟のしたくをしてあれば、中庭からぬけだすことはできましょう」
王は険しい表情で、ゲイルをにらむ。とはいえ、すでに姫が逃亡したあとなら、なによりも行方を追うべきと考えた。
「女の足だ。まだ、さまで遠くへは行っていまい。みなの者、国中に触れを出し、姫を探せ!」
王の命令で騎士たちは街へと走っていった。
「ゲイル。監視役のそなたが、このような計略も見ぬけぬとは。姫をのがした罪は重いぞ。そなたも死ぬ気で探してまいれ」
「御意」
王も去り、一人になったゲイルは微笑を浮かべる。
それを見ていた者があった。サリムだ。
「ゲイル。おまえ、ようすがおかしいぞ。かくしごとをしてはいないか?」
サリムは親友だ。ゲイルにとっては兄のような存在でもある。やはり、サリムだけは容易にだまされてはくれないらしい。
「サリム。これは父から聞いたことだが知っているか? 青き血は、それを最初に口にした者が、病への耐性を持つまでの一刻のあいだしか、血青の効果がないんだ」
「それは、おれも父から聞いた。一刻をすぎてしまうと、ほかの者が血を飲んでも、なんの効果も得られないと」
「つまり、姫の血で、この城じゅうの人間があの病への耐性を得るためには、みながいっせいに姫の血をすするしかないんだ。たとえ、わずかの量でも、誰か一人がぬけがけして、さきに姫の血を飲めば、効果はその者しか得られない」
サリムの表情がこわばる。ゲイルの言わんとすることに気づいたようだ。
「まさか、ゲイル。おまえ……」
「さっき、姫の血を飲んだ。そろそろ一刻になる。もはや、姫の血は万病を治す血青ではない。ただの青いだけの血だ」
「なぜ、そんなことを……」
「なぜ? もちろん、姫を殺させないためにだ。サリム。たのみがある。今のうちに姫をつれて、どこか遠くへ逃げてくれ。王の怒りが姫にむかないように。これは私が自分の考えでしたことだ。責任は私がとる」
「しかし……」
「お願いだ。こんなこと、たのめるのは君しかいないんだ。私の代わりに姫を守ってくれ」
サリムは真剣な目で、ゲイルを見つめていた。
ゲイルの決心が硬いことを理解したのだろう。
「わかった」
渡りろうかの扉の内へかけていくサリムを、ゲイルは微笑みで見送った。
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