青のなかへ

1/1
前へ
/5ページ
次へ

青のなかへ

「それで、ゲイルはどうなったのですか?」  湖のほとりで、私は老人の話を夢中になって聞いていた。  たずねると、老人はあっさりと悲しい事実を告げる。 「ゲイルは城の人々に食われた。姫の血を飲んだゲイルには、姫の血と同じ血青の効力があると、王妃が言いだしたからだ。王妃の言葉は正しかった。人類はあの病に対しては打ち勝つことができた。だが、やはり、ゲイルの考えどおり、それは早計な判断だったのだろう。翌年に、もっと恐ろしい病が流行ったのだよ。城の人々は全滅した。もはや、新しい病に立ちむかうすべが、何も残ってはいなかったのだからな」 「……では、ゲイルは無駄死にじゃないですか」 「そうなるな」 「青の姫はどうなったのですか? ぶじに逃げおおせたのですか?」 「サリムにつれられて逃げだしたものの、旅の途中でゲイルの死を知った。ゲイルのあとを追い、湖に身をなげたのだそうだ」 「そんな……」  老人は目の前に広がる湖に目をむける。 「それが、この湖だ」  私もつられて湖面をながめた。  ただの水とは思えないほど、あざやかなブルー。  深く伝説を飲みこんだ神秘の色。  しゃがれた声で、老人は続ける。 「ウワサでは、血青の力を失ったあとも生きのびた青の一族は、不死になるのだそうだ。この湖の底で、青の姫はまだ生きている。そして、愛しい人を想いながら泣き続けている。世界中をその涙で飲みこんでしまうほどに。だから、この湖は年々、広がり続ける。姫の涙がやまないかぎり、湖の水は増す。この青は、姫の涙の色だ」  そう言って、老人の姿は風にかきけされるように消えていった。  それは、死んでもなお姫を守り続ける、ゲイルの魂だったのだろうか?  私はまた旅立つことにした。  あと何年、この世界が続くのかわからないが、生きているかぎり、語ろうと思う。  この世が青のなかへ溶けていくわけを。  永遠の愛の物語を。  了
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!

15人が本棚に入れています
本棚に追加