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青のなかへ
「それで、ゲイルはどうなったのですか?」
湖のほとりで、私は老人の話を夢中になって聞いていた。
たずねると、老人はあっさりと悲しい事実を告げる。
「ゲイルは城の人々に食われた。姫の血を飲んだゲイルには、姫の血と同じ血青の効力があると、王妃が言いだしたからだ。王妃の言葉は正しかった。人類はあの病に対しては打ち勝つことができた。だが、やはり、ゲイルの考えどおり、それは早計な判断だったのだろう。翌年に、もっと恐ろしい病が流行ったのだよ。城の人々は全滅した。もはや、新しい病に立ちむかうすべが、何も残ってはいなかったのだからな」
「……では、ゲイルは無駄死にじゃないですか」
「そうなるな」
「青の姫はどうなったのですか? ぶじに逃げおおせたのですか?」
「サリムにつれられて逃げだしたものの、旅の途中でゲイルの死を知った。ゲイルのあとを追い、湖に身をなげたのだそうだ」
「そんな……」
老人は目の前に広がる湖に目をむける。
「それが、この湖だ」
私もつられて湖面をながめた。
ただの水とは思えないほど、あざやかなブルー。
深く伝説を飲みこんだ神秘の色。
しゃがれた声で、老人は続ける。
「ウワサでは、血青の力を失ったあとも生きのびた青の一族は、不死になるのだそうだ。この湖の底で、青の姫はまだ生きている。そして、愛しい人を想いながら泣き続けている。世界中をその涙で飲みこんでしまうほどに。だから、この湖は年々、広がり続ける。姫の涙がやまないかぎり、湖の水は増す。この青は、姫の涙の色だ」
そう言って、老人の姿は風にかきけされるように消えていった。
それは、死んでもなお姫を守り続ける、ゲイルの魂だったのだろうか?
私はまた旅立つことにした。
あと何年、この世界が続くのかわからないが、生きているかぎり、語ろうと思う。
この世が青のなかへ溶けていくわけを。
永遠の愛の物語を。
了
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