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一通り食べ、酔いもまわってきた頃、店主に訊いてみた。
「この店、変わってるけど味がいいね。特にこの汁がうまいな」
「へい。ありがとうございやす」
「出汁に秘密があるとみた」
「へい。おっしゃるとおりで」
「何使ってんの?」
「・・・・・・・・・・・・」
「企業秘密? 教えてよ」
店主の顔に、初めて亀裂のような笑みが浮かんだ。
「お客さんが、よくお知りのものですよ」
店主がおでん鍋の底をお玉でさらった。
ゆっくりと引き上げる。焦らすようにゆっくりと。
ごぽごぽと黒い沼から泡を立てて、薄茶けた出汁のもとが浮上する。
その一連の光景を目にした俺の脳裡には、中学三年の夏の情景が浮かび上がる。
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