闇おでん屋

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 炎天下の昼下がり。蝉の合唱。校舎裏山の鬱蒼と茂った木々の中。  よせ。  白くて細い足。手。指。・・・・・・首。  やめろ。  艶やかな長い黒髪が乱れる。麦わら帽子が(くさむら)に落ちる。  ちがう。  汗ばんだ自分の手がいつまでも、いつまでも力を込める。  あれはちがうんだ。  とっくに力の抜けた肢体に、ずっとすがりついて。  あいつが悪いんだ。  彼女を抱え当惑する。付近に沼があることを思い出す。  あいつが断るから。  沈んだものが二度とあがってこないと噂されていた。  俺の気持ちを弄んだから。  フェンスを乗り越え、内側からロープに括った彼女を引き上げる。  他に好きな奴が居るだなんて。  降ろした彼女を沼に突き落とした。  だからつい、かっとなって。  黒い沼にゆっくり沈んでいくのを見届けた。  いつ見つかるかと冷や冷やしたもんだったけど。  行方不明になった彼女の捜索範囲には、当然その沼も含まれた。  あいつは見つからなかった。  さらわれた沼からは大量のゴミしか出なかった。  あいつは消えたんだ。  彼女は見つからなかった。  そう、見つからなかったんだ。  店主がお玉に乗せた、下顎骨の外れた頭蓋骨を、俺は呆然と見つめていた。 「いい味、だったでしょう?」  店主が(わら)う。  嗤っている。
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